寄稿コラム
2021.11.10
「無知では済まない落とし穴」サイバー犯罪関係法令の概要と、学校での対応
目次
前回のコラム( 子どもたちがICTを安心安全に活用するために )では、教育情報セキュリティポリシーについて取り上げました。
教育委員会などで定める対策基準に沿って運用手順・ルールなどを作成するのですが、その背後には様々な法令が関係しています。
法令の内容や遵守するための方法などを整理し、施行後は関係者に周知・啓発活動を続けていくことになります。
教育情報セキュリティポリシーの策定に関わる人には関係する法令を深く理解する機会がありますが、一般の利用者にとって、法令について正しく理解する機会が十分とは言えません。
教育情報セキュリティポリシーが策定されていなかったり、改定が間に合っていない地域は少なくないと思われますが、策定や改定を待っているばかりではいけません。その間もサイバー犯罪に関する法令は効力を持っています。
「法令の内容を知らなかった。」という言い訳が通用するはずもなく、知らなかった結果、興味本位や不用意に実行した操作などによって検挙されてしまう可能性があります。それも、高校生や中学生が検挙されるという不本意な事案が発生しています。
兎にも角にも「皆が知る」ことが何より大切です。
周囲の人や子どもたちと共通認識し、法令を違反しない、正しいICTの活用を推進していきましょう。
主なサイバー犯罪関係法令と、検挙対象となる内容
不正アクセス行為の禁止等に関する法律違反 ・ID/パスワードの不正取得、不正保管 ・フィッシングサイトの開設 など |
ポイント!
ID/パスワードの貸し借りや、他人との共有はご法度。
情報セキュリティ意識の低下を招き、不正アクセスを容認する姿勢につながることが懸念されます。
最も基本的な部分として「自分のID/パスワードを人に教えない」という共通認識が大切です。
コンピュータ・電磁的記録対象犯罪 ・ホームページのデータを無断で書き換える など |
ポイント!
校務や学習活動で取り扱うデータ(ファイルやフォルダなど)を無断で変更しないようにすること。
他人のデータは大切に扱うこと。勝手に書き換えや変更しないなどについて、常に意識し合うことが大切です。
不正指令電磁的記録に関する犯罪 ・他人のパソコンのデータを破壊するためウイルスを作って保存する ・ネット上で事情を知らない人にウイルスをばらまく など |
ポイント!
興味本位で「コンピュータウイルス」などのキーワードを検索して、プログラムファイルをダウンロードしたり、自分でプログラムを作成するような行為から、知らず知らずのうちに犯罪の加害者になることが懸念されます。
「ウイルスプログラムを扱うことは絶対にダメ。」ということを常に意識するように伝えましょう。
ネットワーク利用犯罪 ・ホームページ上で他人を誹謗中傷する(名誉毀損) ・電子掲示板などで犯行予告を行う(脅迫) ・インターネットオークションでの詐欺 ・わいせつ図画・児童ポルノ等を不特定の人に閲覧させる など |
ポイント!
ネット上での誹謗中傷は犯罪行為に該当する可能性があること。爆破などの犯行予告も同様。
ネット販売の詐欺や、裸の画像を拡散することも犯罪にあたる可能性があること。
どれも「絶対にダメな行為」だということを共有しましょう。
著作権法違反 ・他者の著作物を無断でインターネットに投稿した ・漫画、動画、音楽、などの海賊版を販売した など |
ポイント!
他人が創作した著作物を「無断で複製し配布したらダメ」「個人で楽しむ範囲を超えて複製したらダメ」「複製して配布する場合は著作権者の許諾が必要!」という原則について共有することが大切です。
学校では「一定の条件を満たす場合に限って、著作権者の許諾を得ずに複製できる」という「例外措置」(※1)が存在しますが、私的な利用場面では適用されません。
その線引きの意識も大切です。
繰り返しになりますが、教育情報セキュリティポリシーの策定や改定を待たずとも、ICTを活用する全ての利用者がサイバー犯罪関係の法令のことを知り、遵守し、常に意識することが極めて重要です。
「全ての利用者」の中には、教育委員会関係者、教職員、ICT支援員、児童生徒、保護者などが含まれています。
学校内外で、大人も子どもも、「盗んだらダメ」「人を傷つけてはダメ」と同様に、これらの犯罪を犯さないためのポイントを確認し合ってください。
情報モラルや情報セキュリティを学ぶための様々な教材や資料も出されています。(※2)
目的や伝える対象に合わせて、活用してみてください。
児童生徒がサイバー犯罪に巻き込まれることがないように、願っています。
※1 文化庁「著作物が自由に使える場合」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html
一般社団法人 授業目的公衆送信補償金等管理協会「授業目的公衆送信補償金制度」
https://sartras.or.jp/
※2 情報モラル・情報セキュリティーの理解に役立つ教材や資料(例示)
・総務省「インターネットトラブル事例集」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/jireishu.html
・警視庁「サイバー犯罪対策プロジェクト」
https://www.npa.go.jp/cyber/index.html
・同内「サイバー犯罪防止広報パンフレット」
https://www.npa.go.jp/cyber/pamphlet/index.html
・IPA(情報処理推進機構)「ここからセキュリティ!」対策の基本
https://www.ipa.go.jp/security/kokokara/measure/index.html
※本資料に掲載のその他の会社名および製品名、ロゴマークは各社の商号、商標または登録商標です。
筆者
株式会社NEL&M(ネル・アンド・エム) 代表取締役/ICTスクールNEL 校長 田中 康平 氏
・教育情報化コーディネータ 1級(2018年認定 ※国内5人目)
【委員等】
・国立教育政策研究所「全国学力・学習状況調査のCBT化に向けた試行・検証のためのCBT問題開発に係る調査研究検討委員」(2021年度)
・経済産業省「未来の教室実証事業」教育コーチ(2018~2019年度:麹町中学校担当)
・佐賀県教育委員会 ICT利活用教育推進に関する事業改善検討委員(2015~2019年度)