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2024.06.17
埼玉県久喜市教育委員会 STEAM教育実践動画とインタビュー
目次
急激に変化しグローバル化する現代社会において、私たちの生活は多様化し、生成AIやロボットといった技術の活用や、災害への対応といった新たな課題も生まれています。
そのような将来の変化が予測し難い時代を前に、子どもたちに必要となるのは、自ら課題を見付け解決に向け行動する「生きる力」を身に付けること。子どもたちが自ら未来を切り拓く力を培うことは、子どもたちの主体性の尊重やウェルビーイング(注1)の向上にも繋がります。
埼玉県久喜市では、第3期久喜市教育振興基本計画の基本理念に「だれもが夢と志を持ちみんなで豊かな人生を切り拓く久喜の教育—no one left behind (誰一人取り残さない)—」を掲げ、「誰も取り残さない教育」を推進されています。
久喜市の教育改革を進めて来られた柿沼 光夫教育長、飯野 純子教育部指導課長様にお話をお伺いしました。
ICT活用の風土を醸成した「久喜市版 未来の教室」4+1のコンセプト
久喜市では、GIGAスクール構想による一人一台の端末環境整備をふまえ「久喜市版未来の教室」と名付けた独自の取組を推進されています。
これはICTを活用する風土の醸成を目標とし、①オンライン教育の実施、②個別最適な学びの提供、③STEAM化された学びの提供、④校務の効率化の4つの項目に、教師への様々な研修を加えて、ICTの活用を進めていくものです。
ICTの活用が根付いたことにより、従来の教師による板書を中心とした画一的な授業スタイルから脱却し、個別最適な学び・主体的な学びの実現が可能となりました。
「当初はICTの経験が浅い先生方もおり、学校間の取組に対する意識にも差がありました。しかし、ICTを活用することによって子どもたちの集中力が上がり、学力が向上する等の成果が出ることが分かってくると、先生方もおのずと取り組むようになり、好循環が生まれました。」(柿沼教育長)
ICTを活用することで子供たちが楽しみながら学ぶ姿が見られるようになったことは、先生方にとって大いに刺激となったようです。
「ICT活用の風土が醸成されたことで、子どもたちの学びや、教員の働き方は大きく変容しました。端末の持ち帰りについては既に3年前から取り組んでおり、希望すればいつでもオンライン授業で家庭から授業を受けることが可能です。
先生方の働き方改革にもICTは大きく貢献しており、学校を越えた職種のチャットグループによる情報交換といったノウハウの共有だけでなく、校務の面でも大幅に削減されています。」(柿沼教育長)
柿沼 光夫教育長
ICTを「使いこなす」その先へ
ICTを使いこなすフェーズから更に一歩進めるため、令和5年度には、市内の5校がリーディングDXスクール事業の指定を受け、更に2つの中学校が生成AIパイロット校に指定されています。また、文部科学省が進めている授業時数特例校制度においても、市内31校全てが指定を受けています。
「国の色々な改革の事業に率先して手を挙げることで、時代の流れを理解し、何が求められているのかを考えながら、各学校で取り組むことが可能となりました。先生方も子どもたちも、自分たちのやっていることに手ごたえを感じていると思います。」(柿沼教育長)
久喜市の教育に対する熱意が評価され、2024年1月に開催された第6回日本ICT教育アワードでは「経済産業大臣賞」を受賞されました。
GIGAスクール構想で整備された機器が更新の時期を迎え、更なる発展を目指す中、大切なことは「繋げていくこと」であると柿沼教育長はお話しされています。
「授業の中心は子どもたち。子どもたち自身が多様化する学びの中から最適な学びを選択し、課題を解決する方法を身に付けることが理想であり、教師は言わば学びのコーディネーターとして、子どもたちの自主性を引き出します。
子どもたち自身がどういう学び方、学びが良いのかを考え、自分に合ったやり方を選択する。それはICTの活用だけに限ったことではなく、多様な方法で自らの学びを広げていく。それは自分たちの将来においても役に立ち、生涯を通して学ぶ人間を育てることになると考えます」
「ワクワクする心」がSTEAM推進の原動力
飯野 純子 教育部指導課長
ICTを活用した学びを深める中で、実際の授業風景はどのように変化したのでしょうか。
令和4年度まで久喜市立砂原小学校で校長を務められていた飯野教育部指導課長は、STEAM化された学びの実践の中で、子どもたち自身が課題に気づき、お互いに協力し合いながら解決へと向けて学びを進めるシーンが増えてきたといいます。
「ワクワクする心や何か役に立ちたいという思いや、社会課題を解決したいという子どもの気持ちがSTEAM推進の原動力となっています。実際に子どもが自発的に考え、市内の企業等と連携して活用されている事例もあります。例えば市役所では、防災課の職員が防災の授業の講師となったこともあります。またスポーツ振興課では誰でも手軽にできるスポーツを子どもたちと一緒に考えて、イベントを開催。イベントは周知や集客が難しいのですが、子どもたちが周知・発信してくれたおかげで親や家族等にも広まり、集客率を上げることに繋がりました。」(飯野課長)
3Dプリンターやドローン、360度カメラ(RICOH THETA)といった新しい技術を臆することなく活用し、自分たちの学びを自分なりの方法で深めていく子どもたち。
地域や企業との新たな繋がりも生まれ、各学校が独自の取組を進める「自走」も進んでいます。
「大切にしたのは、「まずやってみよう」の精神です。子どもたちが、どうすれば出来るのかを考えるマインドに変わったことで、先生方の姿勢も変わりました。
子どもたちが発想を膨らませて社会に発信する。それは小さなことかもしれませんが、やがて誰かの行動の変容に繋がり、地域や社会に循環していく。それこそが自分が役に立ったと思える活動なのではないでしょうか。」(飯野課長)
子どもたちの「やってみたい」という思いを後押しするのは、久喜市教育委員会の「まずやってみよう」のマインド。それは子どもたちの「楽しい」「もっとやってみたい」という学びを深めるための支えにもなっています。
自ら考え学ぶ力や、社会の為に役立ちたいという心は、久喜市の教育における礎として、今後も受け継がれてくものではないでしょうか。
下記ページでは、久喜市立砂原小学校でのSTEAM教育実践の取組を中村学園大学 山本朋弘教授(日本教育工学協会副会⻑)によるインタビューとともに、動画でご紹介致します。
※注1 身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念。