
寄稿コラム
2025.03.24
AI時代の自律した学び 真の個別最適な学びとは Vol.3
目次
1.指導の個別化とは
それでは、「指導の個別化」を進めるには、どのような支援を進めれば良いのでしょうか?
「指導の個別化」では、解決に向けて個人の特性に応じたヒントを教師が与えたり、様々な方法で解決するのを支援したりするなど、指導方法の多様性を想定しています。
個別化においては、これまでの取組を考察すると、以下の2つの方向性が見られます。
1つは、課題解決を中心として、個別化を支援する方向です。
各教科等での学習課題を教師が提示して、その課題を解決する過程で、学習の個別化を図りながら、学習者主体の学びを展開していきます。
もう1つは、定着や習熟を中心とした個別化です。
課題解決では、クラウドでの共同編集等を活用して学習を進めるのに対して、定着や習熟を中心とした場合は、ドリル学習を中心とした学習を展開することが多く見られます。
表1 「指導の個別化」の2つの方向性
課題解決を中心とした個別化 |
・課題を解決する過程を通じて、児童生徒が自己決定や自己調整しながら、主体的な学習を進める。 |
定着や習熟を中心とした個別化 |
・知識、技能の定着や習熟をねらいとして、ドリル学習を中心として、児童生徒が学習を進める。 |
2.指導の個別化の実際
それでは、学校において、指導の個別化が実際にどのように進められているか、具体的な事例として、埼玉県久喜市立砂原小学校の事例を見ていきたいと思います。
埼玉県久喜市立砂原小学校では、「指導の個別化」に力を入れて、授業研究を進めてきています。その中で、以下の視点を持って、個別最適な学びを展開しています。
表2 砂原小学校の「指導の個別化」の視点
1.単元構想(探究ストーリー)が立っている。(教材解釈+教材開発=教材研究) |
(1)教材の工夫
子供たちにとって、どのような教材が魅力的なのか、興味や関心を高めるのか、教師が教材開発をしっかり進めることで、単元全体での学習意欲を継続させる工夫が行われています。
第5学年社会科の単元名「自動車をつくる工業」での取組から見ていきます。
①「アイディアを形に、「未来の車はどんな車!」
第5学年社会科の単元名「自動車をつくる工業」では、子供たちが未来の車を想像しながら、自動車工業について調べた事実を関連づけて、表現することをねらいとしています。
自動車について、児童の身近な生活場面での疑問から本質的な問いを設定していき、未来の自動車を自分たちで考えていくように発展していきます。(写真1を参照)。
単元全体を見通して、学習者が興味関心を高めるような課題を設定して、学習者が本気で挑戦しようとする学びを展開しています。
写真1 4年算数 四角形と三角形の面積での課題提示
②課題設定から単元全体を見通す
探求的な学びにおいては、単元全体の学習課題を工夫して、単元全体での学習意欲が持続するようにしますが、それだけではありません。
子供たちが主体的に学ぶには、単元全体での学びを見通して、ゴールに向かって探究していくことを支援することが必要です。
どんな学びを、どのように進めるのかを、子供自身が考えることができるように支援していきます。本単元では、生産と運輸を一連の流れとして学習できるように、工業生産とその過程をつなぐ運輸の働きを関連させた単元構成を進めています。
さらに、単元の導入時には、自分で考えた未来の自動車を考えていく中で、イラストや設計図、CM動画、プログラミングや3Dプリンタを用いた制作など、多様な方法で取り組ませて、子供たちが以後の学習活動へのイメージを深めることができるようにしています。
下の画像は、子供たちが単元導入時から活用した学習計画表です。このシートからさまざまな学習資料にリンクするようにしています(写真2を参照)。
また、ルーブリックとあわせて、児童が自分の手で計画を立案して、クラウド上でその進み具合を教師や仲間と共有しています。
写真2 5年社会科 学習課題の提示
③振り返りシートの工夫
振り返りの継続化を図るために、学習計画と振り返りシートを一体化させた学習シートを開発して活用しています。
日本の自動車の生産から工夫点を探す活動において、子供たちが選択した学習方法や学習内容をクラウド上のシートに記録していくようしています。
そのシートは学級で共有化されているので、他の子供が何を選択して学習しているかがわかり、他者の活動を見える化することで、他者参照が進めやすくなっています。
さらに、そのシートには、学習の振り返りを記述する欄を設けており、学習の終末時点では各自の活動をくわしく記録していくようになっています(写真3を参照)。
写真3 計画・振り返りシート
(2)子供たちの活動
第5学年社会科の単元名「自動車をつくる工業」では、調査活動の中に、生成型AIに質問して、その回答を参考資料とする活動が進められていました。
ここでは、子供たち自身に、条件文(プロンプト)を考えて、わかりやすく適切に回答させるための工夫を学ぶようにしています。役割や条件、指示を明確に入れるなど、プロンプトを考えさせることで、生成型AIに対する見方も深めることができています。
写真4 生成型AIのプロンプトに関する掲示
以下の例は、生成型AIを活用して、子供が書いた文章を、子供自身が添削している様子です。
自ら添削することで、繰り返し自分の文章を読み直して、さらにより良い文章に高めていくことができたようです。
写真5 生成型AIによる文章添削の例
写真6は、自分で考えた未来の自動車を3Dプリンタで構想している様子です。子供たちは、試行錯誤しながら、自分で考えた未来の自動車のミニチュアを実際に制作しています。
また、写真7では、プログラミングツールを活用して、自分で考えた未来の自動車を再現しようとしています。
調査活動で得られた知識や技能を活かして、次の制作活動を進める。
このように、事実をまとめる調査学習に止まらず、自分たちの考えを発信する活動を設定することで、学習者の主体的な学びはさらに深まっていくのです。
写真6 3Dプリンタでの制作
写真7 3Dプリンタでの制作とプログラミングの様子
筆者

中村学園大学 教育学部 山本 朋弘教授
博士(情報科学)
日本教育工学協会(JAET) 副会⻑
東北大学大学院情報科学研究科早期修了(学位取得)
熊本大学教育学部卒業
東京工業大学大学院内地留学
岐阜大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)
鹿児島大学教育学部附属教育実践総合センター講師
鹿児島大学大学院教育学研究科准教授を経て、現職。
ICTを活用した主体的、対話的な深い学びを促す学習指導の工夫を研究