寄稿コラム
2022.02.11
学習を加速させるために〜みんなで習得したいICTスキル〜
目次
前回のコラム「学ぶ→できる・できた! ~学びのゴールが変わった!大人にも知って欲しい新しい学びと評価~」ではコンピュータのある学びにおけるゴールについて紹介をしました。
本記事ではICTスキルの課題や現状を解説したうえで、習得の目安や習得方法について詳しく説明をしたいと思います。
ICTの活用と新たな学びの姿への期待
ICTを活用した子どもたちが学ぶ姿。皆さんはどのようなイメージを描くことができるでしょうか?
自在にキーボードを叩きながらすらすらと文字を入力し、表計算ソフトでグラフを作りスライド作成ソフトに挿入し、プレゼンテーション資料やポスターを制作して人前で発表し、その様子を動画に撮影して編集し、学校のHPや動画共有サイトなどで発信する。
そうしたプロセスの中で子どもたちは、学習内容を要約したり、根拠となる情報を集めて吟味したり、学習の進み具合を確認したり調整したり、友達と協働的に学びながら自分にはなかった別の視点で考えてみたり、新たな気づき得たりしていることでしょう。
様々な体験的な学びと試行錯誤を通して生きて働く知識技能を身につけ、思考力・判断力・表現力を磨き言語能力を高め、情報活用能力が育まれる学習活動に主体的に参画し、問題発見・解決能力を発揮している。
そういう学びの姿のイメージが湧き、日々の授業で見られるようになれば、最高ですよね。
ICTスキルの課題・現状
実際は…「ICTスキルの面で課題があり、思うような学習活動に進めない。」という声を耳にすることも珍しくありません。
児童生徒のICTスキルの課題の例 ・タイピングが上手くできないために、ID・パスワードの入力が難しく、PCの操作を始めるまでに時間がかかってしまう。(主に小学校低学年の児童) ・半角/全角の切り替えを理解していないために、プログラミングの命令が正しく実行されないことがある。 ・記号の入力ができない。大文字・小文字の切り替えができない。 ・スライド作成ソフトや表計算ソフトの操作を教えることが難しい。(どこまで教えたら良いのかわからない。) ・ファイル名のルールを決めて保存したり、ファイル名に作成日を付けて管理したりすることが周知されていない。 ・インターネットの検索結果として表示される情報が多すぎて、正しい情報に辿り着くことができない。検索結果が表示されない。(フィルタリング環境の課題)複数のキーワード使い検索結果を絞り込むことができない。 ・動画を撮影しやすい環境がない。動画を編集するソフトがない。動画編集ソフトの操作を教えることが難しい。(どこまで教えたら良いのかわからない) |
※筆者が実際に学校の先生から聞いた声を元にしています。
GIGAスクール構想による「学習者用コンピュータ1人1台」の環境を効果的に機能させることができれば、冒頭に書いたような、豊かで発展的な学びの姿を目にする機会が確実に増えます。
その結果、子どもたちの学びの質がガラリと変わり、主体的・対話的で深い学びが当たり前になり、自ずと授業改善が進んでいくでしょう。
その「鍵」は先生の「ICT活用指導力」よりも、児童生徒の「ICTスキルの習得」です。
ICTスキルはどの程度必要なのか?
では、どのような「ICTスキルをどの程度習得すればよいのか」を例示してみたいと思います。
児童生徒が習得しておきたい「ICTスキル」の例
■タイピングスキル 小学1~2年 ・ホームポジションをマスターしている。 ・アルファベットの入力ができる。 ・ローマ字の記憶・理解を前提としない「指の運動」的な習得の方が容易です。 小学3~4年 ・ローマ字で入力ができる。正確なタッチタイピングができる。 小学5~6年 ・漢字、記号、半角英数字などを含む文章を正確に入力することができる。 入力の目安:1分間に50~100文字以上 (毎日パソコン入力コンクール 3級~1級程度)※1 |
■カメラ機能 |
■スライド作成ソフトの基本操作 小学4年国語「新聞づくり」や社会「都道府県に関する学習」などで取り入れ始める。 ・テキストボックスや画像の挿入 ・文字(フォント)の種類や大きさ、色の変更 ・図形等の大きさの変更や配置・整列 ・文字や図形のコピー、貼り付け ・画像のトリミングや編集、図の圧縮 ・PDFへの書き出し ・名前をつけて保存(作成年月日を半角数字で付与)、など |
■表計算ソフトの基本操作 |
■文書作成ソフトの基本操作 |
■ファイルの共有 |
■インターネット検索 |
ICTスキルを習得するために必要なこと
児童生徒がこのような「ICTスキル」を習得するためには、以下の2つの機会を設定することが大切です。
- 基本操作に触れる体験や練習の機会(1学期の早い段階など)
- 学習活動の流れの中で活用する機会
タイピングスキルは反復練習が必要ですが、例えば、お昼休みの時間を利用して、週に1回10分程度の練習を繰り返してみましょう。留意したいポイントは3つです。
- 速さを競わない(習得の進度は個々に異なる)
- 正確なタイピングを求める(ゆっくりで良いのでミスが減ることが大切)
- 常にホームポジションを意識させる(できる限り手元を見ないように)
競争が過度になると、速く打とうとして正確性を欠いてしまいます。上達のスピードは一人一人異なります。ゆっくりで良いので着実なステップアップを見守ってください。
それと、小学3年国語のローマ字の学習からタイピングに取り組むのではなく、低学年からホームポジションの運指による練習をお勧めします。
ホームポジションが身につかないままだと、いつまでも手元を見てしまいスキルアップしなくなります。
また、ローマ字を想起しながら指を動かすことはとてもハードルが高く難しい操作です。
最初から求めてしまうと、上手くいかない子が先に進み難くなってしまいます。
その他の操作は、「体育や理科などで写真や動画を撮影する」「撮影した写真に手書きで言葉を添えたり、短い説明文入力する」「スライド1枚に写真を挿入して学習した内容をまとめる」「新聞やポスターづくりを行う」「根拠となる情報を検索して活用する」「表計算ソフトでグラフを作成する」という、基本的な操作を組み合わせながら、学習活動の中で意味を持つ活用に取り組むことで、確かな習得に繋がっていきます。
子どもたち同士で課題を解決し合うような場面があれば、操作に困った子に教える、教えてもらう、という学び合いながら共にスキルを身につけていく姿も見られることでしょう。
児童生徒の「ICTスキル」の課題を克服して、ICTの活用も含んだ様々な体験的な学びと試行錯誤を通して、生きて働く知識技能を身につけ、思考力・判断力・表現力を磨き、言語能力を高め、情報活用能力が育まれる学習活動に主体的に参画し、問題発見・解決能力を発揮している。
そういう学びの姿のが、日々の授業で見られることを願っています。
参考「毎日パソコン入力コンクール :取組のめやす(第1類第5・6部和文)」
※本資料に掲載のその他の会社名および製品名、ロゴマークは各社の商号、商標または登録商標です。
筆者
株式会社NEL&M(ネル・アンド・エム) 代表取締役/ICTスクールNEL 校長 田中 康平 氏
・教育情報化コーディネータ 1級(2018年認定 ※国内5人目)
【委員等】
・国立教育政策研究所「全国学力・学習状況調査のCBT化に向けた試行・検証のためのCBT問題開発に係る調査研究検討委員」(2021年度)
・経済産業省「未来の教室実証事業」教育コーチ(2018~2019年度:麹町中学校担当)
・佐賀県教育委員会 ICT利活用教育推進に関する事業改善検討委員(2015~2019年度)