寄稿コラム
2022.02.23
1人1台の学びを観察する視点 〜デジタル・タキソノミーとは?〜
目次
前回のコラムでは「学習を加速させるために~みんなで習得したいICTスキル~」と題して、児童生徒が、どのようなICTスキルをどの程度習得すればよいのかについて例示してみました。
タイピング、スライド作成、表計算、文書作成、ファイル共有、インターネット検索などの「ICTスキル」が身に付くことで、学習活動とアウトプットが多様化し、学習過程(プロセス)の充実が図られ、思考力・判断力・表現力の向上に繋がっていくことでしょう。
この段階になると、以下の項目を観察する視点が大切になります。
- ICTを活用した学習活動での児童生徒の変容
- これまでの教材や教具の活用と比べた違い
「教科書・鉛筆・ノートなどの従来の学習環境を活用した学び」と「ICTを基盤とした新たな学習環境を活用した学び」の違い、良い点、留意すべき点、などを掴むことが、より良い学習活動を設計(デザイン)するための大きな材料となります。
今回は、この観察する視点の一つとして有効な「デジタル・タキソノミー」という考え方を紹介します。
ブルーム・タキソノミーの系譜
ブルーム・タキソノミー
「ブルーム・タキソノミー」という言葉を聞いたり目にしたりしたことがあるでしょうか。教職課程で学ぶ「教育学概論」のような講義や書籍の中に書かれている、教育学の中の言葉です。日本語では「教育目標分類学」と訳されます。
1948年にアメリカの心理学会が大学の試験問題の分類に着手し、『Benjamin Bloom』等によって整理されました。
当時問題視されていた「機械的暗記型・言語主義的教育」による与えられた知識を暗記レベルで記憶するだけではなく、理解・応用・分析・統合・評価など、より高いレベルの教育目標を設定するための尺度としても活用されました。
改訂版タキソノミー
※『A revision of Bloomʼs Taxonomy of Educational Objectives.(2000 Anderson,Krathwohl)』を元に筆者が作図
「改訂版タキソノミー」はBloomの弟子であるAnderson等によって、ブルームのタキソノミーを再構築し、教師が教育実践や評価のために活用するフレームワークとして2000年前後にまとめられました。
単元の進行、各授業の教育目標、評価、などを検討するための「タキソノミー・テーブル」という二次元の表が示され、多くの教育者に影響を与えました。
特に「6段階の認知過程次元(1 記憶する、2 理解する、3 応用する、4分析する、5 評価する、6 創造する)」と「学習の動詞」の関連が提示されたことで、学習者主体の学習活動の進展を捉えるための尺度としても有効な考え方の一つとされています。
ちなみに「1 記憶する」が最も低次の学習・認知スキルとされ、「6 創造する」が最も高次の学習・認知スキルとされています。単元の進行として、1から6に順次進む場合もあれば、6から始まり問題解決のための基礎的な内容を1や2から積み重ねたり、3・4・5を行き来しながら学びを深める、など多様な設計(デザイン)を支援する枠組みとしても機能します。
デジタル・タキソノミー
※『Bloomʼs Digital Taxonomy (2008 Andrew Churches)』 を元に筆者が作図
「デジタル・タキソノミー」は、2007年にAndrewにより提案されました。
「改訂版タキソノミー」で示された「6つの認知過程次元」に対応する「学習の動詞」に「Digitalを活用した学習の動詞」が加えられたことで、動画配信によるオンライン学習や、1人1台のコンピュータを活用した学習活動を設計(デザイン)する場合に広く用いられるようになります。
※『Bloomʼs Digital Taxonomy Verbs(global digital citizen foundation)』 を元に筆者が和訳
「Digitalを活用した学習の動詞」の代表的なものを紹介してみます。
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最も低次の認知・学習スキルとされる「記憶する」には「Searching(検索する)、googling(ググる)」が提案されています。検索するという行動は、記憶のため、または記憶を助けるための行動と考えることができます。最も高次の認知・学習スキルとされる「創造する」には「Programming(プログラミング)」が提案されていることも興味深いものです。
ぜひ「Digital Taxonomy」と英語表記で検索してみてください。様々なイメージ図やポスター画像が見つかります。その中には、多数の動詞(Verbs)を例示しているものもあり、この考え方が様々な国の教育者によって広く活用されていることがわかると思います。
なお、筆者は、こうした海外の文献や資料を参考に日本の先生が利用しやすい内容にまとめた資料「GIGAスクール用ポスター『1人1台時代の創造的な学び』」を公開しています。英語ばかりでわかり難いと感じた方は、そのような資料を参照してみてください。
新学習指導要領×GIGAスクールの学びを発展させるために
「デジタル・タキソノミー」の考え方を活用することができれば、以下の項目を観察する視点が明確になりやすいのではないでしょうか。
- ICTを活用した学習活動での児童生徒の変容
- これまでの教材や教具の活用と比べた違い
同時に、6つの認知過程次元との関連を捉えることで、「応用する・分析する・評価する・創造する」といった高次の認知・学習スキルを獲得する学習活動や、それを意図した学習目標の設定も可能になるかもしれません。
思考力・判断力・表現力をより豊かに育むための単元を設計(デザイン)するための尺度として日々の実践に取り入れることができれば、学習評価の観点を検討したり整理することにも効果がみられることでしょう。
学習者用コンピュータを活用している子どもたちの姿と、「デジタル・タキソノミー」で提案された「学習の動詞」を照らしながら、デジタルを活用した子どもたちの確かな育ちを学びを捉え、教科書・鉛筆・ノートなどの従来の学習環境を活用した学びと、ICTを基盤とした新たな学習環境を活用した学びの違い、良い点、留意すべき点、などを掴み、より良い学習活動が構想されることを期待しています。
株式会社NEL&M 教育情報化コーディネータ1級 田中康平
参考「Bloom's Digital Taxonomy」Andrew Churches」
参考「GIGAスクール用ポスター『1人1台時代の創造的な学び』」(デジタル・タキソノミー)NEL&M
※本資料に掲載のその他の会社名および製品名、ロゴマークは各社の商号、商標または登録商標です。
筆者
株式会社NEL&M(ネル・アンド・エム) 代表取締役/ICTスクールNEL 校長 田中 康平 氏
・教育情報化コーディネータ 1級(2018年認定 ※国内5人目)
【委員等】
・国立教育政策研究所「全国学力・学習状況調査のCBT化に向けた試行・検証のためのCBT問題開発に係る調査研究検討委員」(2021年度)
・経済産業省「未来の教室実証事業」教育コーチ(2018~2019年度:麹町中学校担当)
・佐賀県教育委員会 ICT利活用教育推進に関する事業改善検討委員(2015~2019年度)