寄稿コラム
2022.09.26
「児童生徒のICT活用学習力」を支えるICT汎用スキル2~表計算ソフトの活用~
目次
過去2回のコラム記事(※1)では、「児童生徒のICT活用学習力」というキーワードとその骨格案やICT汎用スキル例、「文字入力」を支える「ホームポジションによるタイピングスキルの習得」について提案しました。今回は「表計算ソフト」について、活用の目安や基本操作の習得方法などを紹介します。
学習指導要領の改定で盛り込まれた新たな領域『データの活用』
小学校では令和2年度(2020年度)、中学校では令和3年度(2021年度)、高等学校では令和4年度(2022年度)から全面実施された「新学習指導要領」では、様々な部分が改定されました。中でも「算数・数学(※2)」では特に「小学校でのプログラミングの導入」が大きな注目を集めましたが、私が注目しているのは「データの活用」という領域です。高等学校の「数学1」では「データの分析」として既に存在していたのですが、今回の改定で小学校・中学校の全ての学年で新たに盛り込まれ、小中高の接続を見通した体系的な領域として構成されています。
※文部科学省の学習指導要領をもとに筆者が作図
この「データの活用」について、中央教育審議会が示した「指導内容の充実」に関する考えでは、「社会生活などの様々な場面において、必要なデータを収集して分析し、その傾向を踏まえて課題を解決したり意思決定をしたりすることが求められており、そのような能力を育成するため、高等学校情報科等との関連も図りつつ、小・中・高等学校教育を通じて統計的な内容等の改善について検討していくことが必要である。」とされており、AIの普及など進展著しい情報化社会に対応しながら課題を解決するための資質・能力の育成を意図していることがわかります。因みに、小学5年の算数で扱われる「Dデータの活用」には
- 円グラフや帯グラフの特徴と用い方、統計的な問題解決の方法
- 測定値の平均の意味
小学6年では
- 代表値の意味や求め方、度数分布を表す表やグラフの特徴と用い方、目的に応じた統計的な問題解決の方法
などが盛り込まれています。
算数・数学の『データの活用』で求められるコンピュータの活用
新学習指導要領により小学校の算数、中学校の数学に盛り込まれた「データの活用」について学ぶためには、ノートの上で手書きで計算するだけではなく、当然「GIGAスクール構想」により整備された学習者用コンピュータを活用しながら、コンピュータでのデータ分析や統計処理などを体験的に学ぶ機会が必要になります。
小学校の学習指導要領における「算数」の記述の中には、「数量や図形についての感覚を豊かにしたり、表やグラフを用いて表現する力を高めたりするなどのため、必要な場面においてコンピュータなどを適切に活用すること。」(※3)中学校の学習指導要領における「数学」の「データの活用」には、「データの分布や母集団の傾向に着目して、その傾向を読み取り批判的に考察し判断することが求めらており、そのための指導として、日常生活や社会における問題を取り上げ、それを解決するために必要なデータを収集し、コンピュータなどを利用して処理し、データの傾向を捉え説明するという一連の活動を生徒が経験することが必要である。」と書かれています。ということは、小学校のプログラミングや、中学校の技術科だけではなく、算数・数学の授業の中でもコンピュータを活用した学びが展開されているはずですが、実態はどうでしょうか?
表計算ソフトの活用の目安
データの処理を行う場合に適しているのは当然「表計算ソフト」です。この点に異論はないでしょうから、算数・数学の授業で「表計算ソフト」が利用されていると思いますが、、、筆者の経験から知る限りでは、そのようなケースは少ないようです。スライド作成ソフトや文書作成ソフトの活用頻度に比べるとあまり(というかほぼ)使っていない、という状況を目にします。子どもたちに聞いてみても、学校で表計算ソフトの操作方法を習った経験がある子は非常に少ないようです。先生からは「いつまでにどの程度のスキルを身につけておくと良いのかわからない」という声も聞きますので、一つの目安を提案したいと思います。
小学校の算数における、各学年の学習内容を踏まえて作成しています。
低学年では、表計算ソフトのセルの中に数字(半角)を入力できることや、数字(文字)の種類や大きさや色を変えたり、配置(セル内の縦位置・横位置)の設定ができると良いでしょう。簡単な計算(+、ーを使った計算操作)ができると、なお良いと思います。
中学年になると、簡単な表や折線グラフの作成、掛け算・割り算も含む四則演算子を使った計算操作もできると良いでしょう。
掛け算の計算操作については、小学2年生の九九を学ぶときに、表計算ソフトで自分専用の「九九表」を作成しても面白いと思います。その際に、掛け算の計算操作を行うことができると、九九の規則性について視覚的に気づきやすくなるかもしれません。
高学年では、合計や平均の計算ができること。もちろん四則演算子を使った計算操作でも良いですが、SUMやAVERAGEなどの関数の存在や機能について学ぶ機会があっても良いと思います。また、円グラフや帯グラフを作成したり、それらをスライド作成ソフトに挿入してレポートやポスターとして表現するなど、他の教科との横断的な視点を含む操作スキルの活用(=情報活用能力の育成)も期待できるでしょう。
表計算ソフトの基本操作について学ぶツール
表計算ソフトの操作について、子どもたちが自然と習得することは難しいと思われます。機能が多いために、必要な操作を見つけることが困難な場合もあります。先ずは数字の入力といった簡単な操作からスタートして、学習内容に応じて段階的に習得することが望ましいでしょう。そのような学習や指導を支援してくれるツールを用意しました。
表計算ソフトとは?から始まり、表計算ソフトで出来ること、タッチパッドの操作、主なショートカットキー、数値の入力、表の作成、数式や関数の活用、グラフの作成、などの基本操作を紹介しています。
さらに、複数のグラフの作成、複数のデータの活用(散布図~相関係数の計算)まで含んでいますので、小学校・中学校と高校の数学1(内容によっては情報1)に対応しています。操作方法は「Microsoft Excel®」を想定して作成しています。数式や関数などは他のソフトでも共通している部分がありますので、参考にしてください。学校の授業や先生の研修などで活用してもらえると嬉しいです。
(※学校の授業および教員研修等での利用に限定して配布しています。学校や教育委員会以外の組織等での使用、複製、二次配布、転売等はご遠慮ください。)
より良い社会を創るために、数値や統計などのデータを根拠の一つとして活用してほしい
ここ数年、私たちは新型コロナウイルス感染症という大きな問題に直面し、それまでと一変する社会を目の当たりにしてきました。明日の行動について何を根拠すれば良いのか悩んだ時、感染者数の変化などのデータの存在が判断を助けてくれてケースは少なくなかっただろうと思います。また、超少子高齢化社会の行く末など、これからの社会を考えるときにも、人口予測などのデータを参照しているはずです。子どもたちが自立して生活する頃には、今よりも良い社会であってほしいと思いますし、子どもたちにも良い社会を創るチカラを身につけていて欲しいと思います。そのためにも、数値や統計などのデータを正しく読み取ったり、正しく処理をして表現したりするスキルが大切です。(これは、私たち大人にも必要なことですね。)小学生の頃から表計算ソフトを活用し、また前回のコラムで紹介したタイピングスキルなどもセットにして、データを活用した確かな思考力・判断力・表現力が育まれる機会が増えることを願っています。
※2「平成29・30・31年改訂学習指導要領(本文、解説)」(文部科学省)
※3「新学習指導要領とコンピュータのある学び~様々な教科の学びに散りばめられた、コンピュータの活用と情報活用能力の育成~」
筆者
株式会社NEL&M(ネル・アンド・エム) 代表取締役/ICTスクールNEL 校長 田中 康平 氏
・教育情報化コーディネータ 1級(2018年認定 ※国内5人目)
【委員等】
・国立教育政策研究所「全国学力・学習状況調査のCBT化に向けた試行・検証のためのCBT問題開発に係る調査研究検討委員」(2021年度)
・経済産業省「未来の教室実証事業」教育コーチ(2018~2019年度:麹町中学校担当)
・佐賀県教育委員会 ICT利活用教育推進に関する事業改善検討委員(2015~2019年度)