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寄稿コラム

2024.07.24

Next GIGA→Beyond GIGA〜教育DXへ Vol.1 先行事例から学ぶ「生成AIの教育利用・留意点・2つの提案」

目次

ChatGPTに代表される生成AIの進化は加速の一途をたどり、教育分野でのサービス提供や学校等での活用も増加しています。
特に、学校における業務改善や、個別最適な学びを支援するためのツールとして注目され、様々な検証や事例の創出が進められています。
今回の記事では、生成AIの教育利用の先行事例、利用時の留意点、今後期待される部分について紹介します。

1.生成AIの現状と教育利用の方向性

202211月末に、OpenAI社がChatGPTを一般ユーザー向けにリリースすると、瞬く間に1億人以上のユーザーを獲得し「史上最速で成長したソフトウェア」となりました(※1)。
リリース当初は「LLM(Large Language Model)」として動作し、文章生成能力の高さを生かした活用方法が考案されました。「ChatGPT-4」が登場してからは、データ分析、ファイルアップロード、Webブラウジング、画像生成などの機能を拡充。20245月にリリースされた「ChatGPT-4o」では、画像と文字を統合的に分析可能となり、流暢な音声会話から情報を生成する機能なども追加されています。
この間、他の企業も追随し、様々な特徴を持った生成AIや、それらを組み込んだ新たなサービスが提供され、日常的に利用される状況となりました。

教育における生成AIの利用としては、学校の業務効率化、授業や教材研究、個別学習の支援などにより、教師本来の業務時間の確保や充実、新たな教材の開発、個々の学習ニーズへの対応などが期待されています。
学校で利用されるICTツールや教育系アプリにも生成AIが搭載されるようになり、各地の学校で先行的な活用が進み始めています。

2.具体的な先行事例

文部科学省が実施した「リーディングDXスクール事業」では令和58月に「生成AIパイロット校」の募集を始め、全国で50校を超える学校が採択されました。令和65月には、各学校の取り組みや成果などがまとめられた報告書が公開されています。(※2)その中から3つの事例を紹介します。

事例1:中学校での生成AI利用~石川県加賀市立山中(やまなか)中学校~
加賀市立山中中学校では、中学生が学習利用することを想定した「生成AIファーストカリキュラム」を開発しています。
生徒は、生成AIの基本事項、留意点、ファクトチェックなどを学んだ上で、自分たちの考えをブラッシュアップする対話型アシスタントとしてChatGPT-3.5を活用。「生成AIを活用して学校生活を改善する」というテーマで、各グループが考えたプロンプトを入力し、生成AIの回答を参考に考えを深め、プレゼンテーションを行なっています。
また、カリキュラム開発自体にも生成AIを活用し、先例がない授業を構想する負担を軽減し、授業準備の時間を充実させるなど、新たな授業デザインの方法も実証しています。
事例2:高校での生成AI利用~茨城県立竜ヶ崎第一高等学校~
茨城県立竜ヶ崎第一高校では、英語科・国語科・公民科・数学科・理科・情報科の授業で生成AIを活用し、その可能性を検証しています。

教科における生成AI活用の主な例
・英語科:生成AIに英語で指示を出し、意図する画像を生成させる。(DALL.E
・国語科:単純な言葉から生成AIが描いた画像を、論理的な文章を作成する。(DALL.E
・数学科:証明問題における論理構築の支援や検証に利用する。(Copilot
・情報科:AIにプログラムのソースコードを生成させ、生徒がアプリを作成する。(ChatGPT-4

教科の見方・考えたを踏まえた生成AIの活用方法が考案され、先端技術による「学びの足場掛け」を通して、限られた授業時間をさらに有効活用する方法が提案されています。
事例3:高校での生成AI利用~大分県立情報科学高等学校~
大分県立情報科学高等学校では、1年生の「総合的な探究の時間」で生成AIを活用。情報デザインのスタートとして「デザイン・シンキング」を学び、地域の課題解決について考え発表する中で、プレゼンテーション技術の向上のために生成AIChatGPT-3.5)を操作。提案の構成の検討、内容のブラッシュアップ、スライド案の作成などの場面で効果的な活用方法を学び、習得しています。
また、AIテクノロジー科の授業では、対話型ロボットの応答に適したプロンプトの開発を体験。情報系の学校ならではの活用方法を検証しています。

3.生成AI利用における留意点

生成AIを教育に利用する際には、いくつかの留意点があります。
プロンプトに「個人情報・機密情報などを入力しない」ということは認識されていると思いますが、著作権や学習活動への留意も重要です。

・著作権への留意
生成AIはインターネット上で公開されているデータを学習し、文字や画像などのコンテンツを生成します。生成されたものが、特定の著作物に類似していたり、類似させようとして学習データを追加したり、生成させたりすることは、著作権の侵害に当たる可能性があります。そのような目的での使用にならないように注意が必要です。
詳しくは、文化庁が令和64月に公開した「AIと著作権に関する考え方」を参照すると良いでしょう(※3)。

・学習面への留意
生成AIが出力した結果は、多くの場合で正確性や妥当性について確認(評価)することが大切になります。この活動は学習効果を高めることにも繋がりそうです。
生成AIによる出力結果について調べる場合、情報源を提示してくれるツールCopilot、GeminiPerplexity、等)を活用すると確認しやすくなります。情報源であるサイトに記載された内容だけでなく、サイトの管理者についてドメイン情報とともに評価することも有効です。そこから、正確性や妥当性を確認し、自分なり考えを形成したり、ブラッシュアップ(改善)する学習プロセスを経由することになれば、Digital Taxonomy※4)での高次元の認知を働かせることになるでしょう。
こうした活動は、生成AIの出力を単なる答えとして受け取るのではなく、批判的に評価し、自分の表現を改善したり理解を深めることにつながります。出力結果の安易な利用は、思考を深める機会が減少する可能性もあるため、留意が必要です。

4.生成AIの教育利用に期待する、2つの提案

生成AIを活用した教育の未来には大きな可能性が広がっています。今後期待される展開について2つ提案します。

・授業デザインの再構築
生成AIを授業計画や学習評価の検討段階から活用することにより、従来の授業デザインを見直し、新たな学習活動やプロセスとして再構築することが期待されます。
生成AIが解説役となり、教師は個々の生徒への支援を充実させたり、個々の生徒のニーズに対応する教材を生成AIで作成したりしながら、見方考え方を働かせる機会を増やし、高次の認知が働きやすい授業を計画し実践する。また、それを改善し再構築することが日常的に実現できるかもしれません。
ちなみに、筆者は授業設計専用のプロンプトや生成AIツールを開発し、学校の授業設計の再構築の相棒として活用しており、その成果を実感しています。

・教師の専門性の向上
教師は生成AIに関する知識とスキルを身に付けることで、その活用を最大限に引き出すことができます。
例えば、生成AIの翻訳精度の高さを活用することで言語の壁が低くなります。これにより、教育研究に関する論文や資料なども国内外を問わず参照しやすくなりますし、教育課題に関する世界的なトレンドや解決策のアイデアなどを理解する際にも、有効なツールとなります。
11台のコンピュータや教育クラウドの活用、習得から活用できる学力の形成、プロジェクト学習、STEAM教育などは日本固有の教育課題ではなく、諸外国が既に直面してきた課題でもあり、数多くの解決策の提案がなされています。そうした文献から必要な要素を見出したり、理論を深めながら実践に適用することで、教師の専門性が向上していくと考えられます。

生成AIの利用は、教育の現場において大きな変革をもたらす可能性が高く、その重要性は今後ますます注目されるでしょう。
教育行政、教育現場でも生成AIを前向きに取り入れ、その能力を味方にしながら、従来の教育課題の改善に取り組み、専門性を高め、新しい学習体験を創出していくことができるはずです。
こうした時代の変化、恩恵に柔軟に対応し、未来の学びをより良いものにしていきましょう。

参考情報
1 OpenAI “OpenAI DevDay: Opening Keynote” 2023
2 文部科学省「リーディングDXスクール・生成AIパイロット校一覧(令和5年度事業)」2024
3 文化庁「AIと著作権に関する考え方について(概要)」2024
4 学びの共創室「11台の学びを観察する視点 ~デジタル・タキソノミーとは?~」2022

※本資料に掲載のその他の会社名および製品名、ロゴマークは各社の商号、商標または登録商標です。

筆者

株式会社NEL&M(ネル・アンド・エム)代表取締役/ICTスクールNEL校長 田中 康平氏

株式会社NEL&M 代表取締役
ICTスクールNEL 佐賀本校 校長
教育情報化コーディネータ 1級(2018年認定 ※国内5人目)


【委員等】
国立教育政策研所「令和4年度全国学力・学習状況調査のCBT化に向けた調査問題の開発・文部科学省CBTシステム(MEXCBT)への搭載およびCBT問題における合理的配慮の在り方に係る調査研究事業」(2022年度)
CBT問題の開発及び実証に関する検討委員・CBT配慮問題の開発に関する検討委員
経済産業省「未来の教室実証事業」教育コーチ(2018~2019年度:麹町中学校担当、2021年度:広島県教育委員会、鹿児島市教育委員会担当)
佐賀県教育委員会 ICT利活用教育推進に関する事業改善検討委員(2015~2019年度)


【カリキュラム開発関連】
・つくば市「つくばSTEAM コンパス」授業カリキュラムおよび教材開発担当(2023年度)
・加賀市「文部科学省 生成 AI パイロット校・生成 AI ファーストカリキュラム開発」( 2023 年度)
・大手旅行会社「観光データを活用した探究学習プログラム」

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