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寄稿コラム

2024.10.28

Next GIGA→Beyond GIGA〜教育DXへ Vol.4 生成AI×教育理論で拓く未来の学び「教育DX実現へのステップ」

生成AI×教育理論で拓く未来の学び「教育DX実現へのステップ」ダウンロード資料

株式会社NEL&M 田中 康平氏に「生成AI×教育理論で拓く未来の学び「教育DX実現へのステップ」」をご寄稿いただきました。本コラムの理解をより深めることが出来る資料をこちらからダウンロードいただけます。

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目次

生成AI時代の教育における変革の必要性

「教育DX」という言葉はご存知だと思います。文部科学省の資料(1)によると第3段階の姿として「学習モデルの構造が質的に変革し、新たな価値創出」と示されています。これを支援するツールの一つとして「生成AI」の活用が注目されています。

現在の学習指導要領では資質・能力(コンピテンシー)を育てる方向にシフトしており、これは「教育DX」が目指す学習モデルの質的変革と一致しています。
教育DXが学習指導要領の実現を後押ししていると考えられますが、どのように学習モデルを変革すべきか迷うことも少なくないようです。

生成AI「新たな授業設計や授業改善」のための有効なツールだと考えています。生成AI環境をうまく活用することで、利用者の考えを深め、問題解決を支援することも可能です。
生成AIによる合理化を進めて教員の負担を軽減し、個別最適な学習や自己調整学習などの新たな授業デザインのヒントも得られるでしょう。

一方で「望ましい生成結果が得られない」という利用者側の課題もあり、教育現場での生成AIの活用は広がりを見せるまでは至っていないかもしれません。
有効活用のポイントは「質の高いプロンプトを提供すること」です。「教育DX(学習モデルの構造が質的に変革し、新たな価値創出)」を促すための「生成AIの活用=質の高いプロンプト」を書くためのポイントを提案します。
article_00061_01.png教育DXの要素イメージ(筆者作 ※app.napkin.aiを利用して作図)

1. 授業改善における課題と生成AIの役割

授業改善に取り組む先生と話をすると、「どのように資質・能力を育成すればよいか?」「既存のカリキュラムをどう変えればよいか?」「学習評価をどう工夫すれば良いのか?」といった悩みが聞かれます。
特に、次の3つの課題がしばしば障壁となっているようです。

授業の構造を変える難しさ

従来の授業スタイルから脱却するために、新しい方法を取り入れたいが、その具体策が不明確である。特に、どの理論や方法を基にすれば効果的かを判断するのが難しい。

学習成果を測定する難しさ

資質・能力の育成を目指しても、その結果をどのように評価すれば良いのかが見えにくい。成績やテストの点数だけでなく、学習者の成長を測定する新しい指標が必要だが、現場での具体的な導入例が少ない。

時間とリソースの不足

カリキュラム改革に取り組むには時間やリソースが限られているため、現実的に実践するのが難しい。日々の授業運営や生徒対応に追われる教員にとって、新しいカリキュラム設計や評価方法を考える余裕が不足している。

ここで、生成AIを有効活用することで、教員が取り組むべき「授業の構造改革」や「評価基準の設計」にも貢献できると考えています。

2. 教育理論と生成AIの組み合わせ

生成AIを活用しながら授業改善を進めるには、「学習モデルの構造を質的に変革する」ための確かな理論の活用が有効です。難しく感じるかもしれません。ここでは、生成AIに適用することで、教育DXに有効な教育理論をいくつか紹介します。

構成主義(Constructivism)(2)

構成主義は、学習者が自分自身で知識を作り上げるという考え方です。
この理論に基づく授業設計では、学習者が主体的に学びを深めるプロセスを検討できます。児童・生徒が自ら考え、対話しながら、社会との関連などにも考えを巡らせて自身の考えを形成し、理解を深める場面、などを構想することが可能です。

改訂版タキソノミー(Revised Bloom’s Taxonomy)(3)(4)

Bloomのタキソノミーは、学習者主体の学び、構成主義的な考えを踏まえたフレームワークとして、知識の習得から応用、評価、創造へと学習者が進むための段階を示しています。
生成AIを使えば、学習目標や学習スキルに応じた問いや課題を構想しやすくなります。知識の暗記などの低次の学習から脱却し、分析や評価などの高次の学習活動を展開し、さらに創造的な問題解決を含む学習プロセスの構想が可能です。

自己調整学習(Self-Regulated Learning(5)

自己調整学習は、学習者が自分で学習の進捗を管理し、調整する能力を育むことに焦点を当てます。
教師は学習者に対して進捗状況に応じたフィードバックを提供し、次に何を学ぶべき内容の示唆や改善策の提案などを行いながら、児童・生徒を支援します。児童生徒自身が次のステップを計画したり、それらを指針に学習を調整・改善する機会を含む学習プロセスを構想することが可能です。

学習評価の改善と生成AIの活用

授業を変革するには、学習評価の改善も不可欠です。学習目標に応じた評価規準の検討はもとより、学習場面に応じた評価方法を選択し、児童生徒の学習を支援したり、学習の調整や改善を促したり、時には先生の指導方法を改善するための評価を取り入れることも必要になるでしょう。
評価規準の叩き台や、学習支援や改善のための発問の例、などを生成AIに作成させて検討を進めることも有効です。生成AIに適用することで、学習評価の改善のための質の高い生成結果を得やすい教育理論を紹介します。

逆向き設計(Backward Design(6)

逆向き設計は、最初に「学習者が達成すべきゴール」を定め、そのゴールを達成するために必要な授業内容や評価方法を逆算して設計する手法です。
生成AIを活用すれば、学習者のゴールに合った課題やテストの自動作成が可能です。これにより、授業の目的がより明確になり、教員は効率的にカリキュラムを構築できます。

形成的評価(Formative Assessment(7)

形成的評価は、学習過程で随時行われる評価として活用され、学習の進捗の判断や改善の支援などに役立ちます。
生成AIに「形成的評価」のための発問例や小テストを自動生成させ、児童・生徒の学習状況や理解度を把握し、それらを元に適切なフィードバックを行いながら、個々の学習支援や、追加の手立ての提供などの指導の改善を行います。

パフォーマンス評価(Performance Assessment(8)

パフォーマンス評価は、学習者が実際に行う活動や課題に基づいて評価を行う方法です。
生成AIを活用することで、プロジェクト型学習や実践・実演的な課題における学習目標や評価の観点から、ルーブリックなどの評価ツールを自動生成させることができます。その結果に基づいて個別のフィードバックを提供したり、学習者自身がステップアップを目指すなかでのパフォーマンスの改善や向上を促します。

3. 実践例:生成AIを用いたカリキュラム再構築のステップ

ここまでに紹介した理論を活用しながら、生成AIを活用して単元レベルの授業デザインや学習評価を改善する手順として、以下のように進めてみましょう。

ステップ1:単元における学習目標の設定

単元の学びの目的を踏まえて、学習者に到達してほしい目標を明確にします。目標から見えてくる学習者の姿(学習中の行動や、単元末に期待したい変容の姿など)をイメージします。生成AIに「逆向き設計」を適用し、全体の学習過程を整理しましょう。

ステップ2:授業計画の作成

「改訂版タキソノミー(Revised Bloom’s Taxonomy)」などの理論を基に、単元計画を作ります。生成AIを使い、児童・生徒が主体的に学びを深めていく流れの中で、どのような資質・能力が育まれるのかを検討し、高次の学習スキルの活用する学習活動を構想しましょう。

ステップ3:評価の設計

学習目標や単元計画に応じた、評価規準を整理しましょう。生成AIを活用し、評価基準に対応した「形成的評価」のための発問例や、「ルーブリック」を作成したり、単元末のテスト問題も作成し、内容を吟味します。

ステップ4:フィードバックと改善

「形成的評価」や「ルーブリック」などを活用しながら、児童・生徒に対して個別の支援を行います。パフォーマンス課題への取り組み状況の改善なども促しましょう。
※児童生徒のリフレクションについて生成AIで分析し、フィードバックすることなども考えられますが、個人情報を入力しないことや、ツールによる年齢制限に留意してください。

今回、14の手順に応じた「プロンプト例」を記載した資料を提供しています。こちらをダウンロードして、実際に生成AIを活用してみてください。
同時に、業務改善のためにも生成AIを活用して、ルーティンワークなどの時短を進め、今回紹介した理論に関する学習時間も確保しましょう。
生成AIの出力結果を改善・応用するには、元の理論の確かな理解が重要であり、これにより再現性が向上します。また、複数の理論を組み合わせることも有効です。
今回紹介した教育理論と生成AIにより、「教育DX(学習モデルの構造が質的に変革し、新たな価値創出)」の実現が加速することを期待しています。

参考文献
(1)文部科学省「教育DX・教育データの利活用について」.2022(参照:2024-10-15
(2)Piaget, J. The Science of Education and the Psychology of the Child. New York:Viking Press1970
(3)Anderson, L. W., & Krathwohl, D. R. (Eds.). A Taxonomy for Learning, Teaching, and Assessing: A Revision of Bloom’s Taxonomy of Educational Objectives. New York:Longman2001
(4)田中康平「デジタル・タキソノミーによる「探究的な学習・PBL」のデザイン方法」RICOH「学びの共創室」.2023(参照:2024-10-20)
(5)Zimmerman, B. J. A Social Cognitive View of Self-Regulated Academic Learning.Journal of Educational Psychology 1989
(6)西岡加名恵「逆向き設計で確かな学力を保障する」明治図書出版.2008
(7)梶田叡一「形成的な評価のために」明治図書出版.1986
(8)Dian Hart(),田中耕治(監訳)「パフォーマンス評価入門」ミネルヴァ書房.2012

筆者

株式会社NEL&M(ネル・アンド・エム)代表取締役/ICTスクールNEL校長 田中 康平氏

株式会社NEL&M 代表取締役
ICTスクールNEL 佐賀本校 校長
教育情報化コーディネータ 1級(2018年認定 ※国内5人目)


【委員等】
国立教育政策研所「令和4年度全国学力・学習状況調査のCBT化に向けた調査問題の開発・文部科学省CBTシステム(MEXCBT)への搭載およびCBT問題における合理的配慮の在り方に係る調査研究事業」(2022年度)
CBT問題の開発及び実証に関する検討委員・CBT配慮問題の開発に関する検討委員
経済産業省「未来の教室実証事業」教育コーチ(2018~2019年度:麹町中学校担当、2021年度:広島県教育委員会、鹿児島市教育委員会担当)
佐賀県教育委員会 ICT利活用教育推進に関する事業改善検討委員(2015~2019年度)


【カリキュラム開発関連】
・つくば市「つくばSTEAM コンパス」授業カリキュラムおよび教材開発担当(2023年度)
・加賀市「文部科学省 生成 AI パイロット校・生成 AI ファーストカリキュラム開発」( 2023 年度)
・大手旅行会社「観光データを活用した探究学習プログラム」

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